2011年04月16日(土) 【宇宙の友人達「バズ・アンドリュース物語」/第二章 宇宙船(1)】 ■第二章 宇宙船 間もなく、異宇宙の光景全体が、長さが2キロ近い巨大な超大型宇宙船の半透明の胴体に隠れて消えてしまった。私を乗せた円盤は『半移行』モードでその宇宙船の胴体を通り抜け、船内に多数ある着陸区画の一つに入ると、完全に物質化した。円盤のドアが開き、私は外に出た。何かを期待するように、初めて異星の生物に会う覚悟をして、気密室を通り抜ける。 そこは、幅が10メートル位のなだらかにカーブしている管みたいな通路だった。そして、手の届く距離には、プラスチックの泡のような車、バブルカーが待っている。 と、何かにぶつかりそうになった。かなり小さな空飛ぶ円盤が目線の辺りに浮かんでいた。直径は約1メートル。胴体が厚いミニ円盤だ。アンテナがあちこちから突き出ていて、光を点灯させている。表面は鏡状で小さなテレビスクリーンも付いている。小さな『ビーッ、ビーッ』という変な音を私に向けて出し続けている。 「そんなのどうってことないよ」 そう言ってから、このような場面で昔から使われてきた科自が口をついて出てしまった。 「首領に会わせろ」 すると、ミニ円盤は仕事をしているキャビンアテンダントのような声で完壁な英語でこう答えた。 「はい、分かりました。そのために参ったのです。どうぞバブルカーにお乗り下さい。ご案内致します」 その小さなホバークラフトに入って座ると、透明な天蓋がパチンと閉まり、音もなく離陸して、ミニ円盤の後について行く。 暗号のように色分けしてある迷路のような通路や、エスカレーター、縦に走る通路、さらには、進行方向を直角に変えるゆっくりと回転するドラムも何度か通った。車体の姿勢が水平であろうが垂直であろうが、問題にはならないようだ。だが、私にしてみれば、いつも足の下が『下』の感じだ。重力も空気も温度も、私にとってはすべてが完全に正常だった。 4車線からなる管のような通路の中は交通量が多い。体にぴったりとしたユニフォームを着た人間のような姿が、両方向に急いで移動して行く。背丈は約1.3から2.1メートル。体色は虹の七色のようにいろいろとある。中には体の特徴が、私が慣れている純粋に人間の特徴ではなく、猫や犬、鳥、爬虫類、さらには昆虫に似ているものもいる。ヒューマノイドの異星人に問違いない。ひょっとしたら、さまざまな異環境や、進化の過程が異なっているところから来ているのかもしれない。 私に注意を払っているものは誰もいない。明らかに、こんな雑多な群の中では、私にもこれといっておかしなところはないのだ。ヒューマノイドの他に、ミニ円盤も何機か行き交っている。単独か、物体を従えているかのどちらかだ。あらゆるものに私は興奮を覚え、とても楽しいドライブだ。 10分位すると異国情緒風な『家具付きの』球状の部屋に入って行く。そこは、毛足の長い敷物があちこちに敷かれ、けばけばしい色をした賛沢な長椅子がいくつか置かれており、食べ物と飲み物を満載したワゴンも置いてある。まるで東洋の君主の私室にいるみたいだ。 部屋の中央の台座の上には、大きな透明な『泡』があり、その中に人間の姿が横たわっている。きらきら輝くボールが、解き放たれたクリスマスツリーの装飾のように空中に浮かびながら、その男の頭を取り囲んでいる。 「ここでお待ち下さい」 ミニ円盤が言う。 「主人は間もなく参ります。ただいまは、ご覧のように、思いがけなくも、星間想念波通信会議が緊急の保安問題について開かれていますので」 「想念波通信?」 私を降ろして出て行くバブルカーから離れながら、尋ねた。 「それに、このふわふわと浮いているボールは、いったい何のためなんだい?」 ミニ円盤の説明はこうだ。 「想念波通信とはESP方式のテレビ電話です。このエネルギー・ボールは、会議参加者のテレパシー中継の役をし、さらにそれぞれに対応する星系から呼出すことができて、通信の相互交流と情報の蓄積が、こうすれば即座に、大変効率よく行えるのです」 どうやら会議は終わったようだ。ボールが一つづつ非物質化し、台座が泡の部分と一緒に床に沈んでいく。人間の姿が前に出てきて挨拶をする。完壁に人間の様子をした髭面の男だ。素敵なシャツジャケットとダンガリーのズボンを身に着けている。 その男が私の手を暖かく握り、完壁な英語で話しかけてきた。 「良くいらっしゃった。サイキアン連盟世界の宇宙部門へようこそ。今乗っているのは連盟登録の宇宙研究室船で、長さは約2.4キロ。中規模の宇宙船です。本当に大規模な宇宙船は、この10倍から20倍はあります。超大型の大きさは言うとびっくりするでしょうから、言うのは遠慮しておきましょう。現在、我々は二重『オム・オン系』の惑星アルゴナの周囲を回っています」 そう言いながら、私達がいる球状の部屋の引き戸式の部分を指し示した。開口部からは、乗って来た円盤からすでに垣間見た惑星が見える。その一部が、昇ってくる二つの太陽に照らされている。まったく驚く光景だ。 だが、主人役の男にはもっと仰天した。すぐに彼の正体が分かったのだ。 つい数日前、ニューメキシコで軽トラックに乗せてくれた、あの奇妙な若い神父だ。 「単なる神父にしては本当に神出鬼没だな」 これだけ言うのがやっとだった。 「神父というのは都合の良い隠れ簑にすぎませんよ」 そう言って、男の子のようにニヤッと笑った。 造り付けのバーのカウンターを彼が指し示すので、スコッチを頼んだ。彼はダブルをオンザロックで二人分作り、話を続ける。 「私は一般的に宇宙人と呼ばれるものです。もっと具体的に言うとサイキアンです。名前はアーガス。貴方がこのようなところを訪問するのを許可する任にあったのが私です」 「『税関と入国管理』のようにですか」 スコッチを一口飲みながら、こう訊いてみた。 「とんでもない。どちらかといえば『歓迎をする者』として、公式の招待主としてですよ」 「それはどうも。まー、とにかく、申告するものは何もないし、不法な意図もありませんよ」 「さあ、それは今後を待つことにしましょう。私達が心配しているのは二重底のスーツケースのようなことではなく、貴方の本当の気持ちや考え方なのです。でも、今のところは合格です」 「何ですか、今頃そんなこと言って!この数日間、私を監視していたんですから、あんたがたは、すでにこちらの奥底まで分かっているはずでしょう」 「そうですね。確かに、決まり切った行動についてのデータは少し集めましたけど、変わった状況で貴方がどういう行動をするかはまだ未知数です」 「たとえば、知事のパーティーに招かれたとして、果たして私が銀の食器を盗むかどうかという可能性についてですか?」 「まったくその通りです。ご存知ないかもしれませんが、『反対勢力』との『冷戦』は非常に油断がならないんです。『トロイの木馬』のような犯罪計画は、宇宙のこの辺りでは、非常に手がこんだものになるんです」 アーガスの話し方は、生真面目そのものだ。 「余談になりますが、ドン・ミゲルは貴方のことを荒っぼすぎる、私達の安全保障にとってリスクが大きい、と考えています」 「そんな馬鹿な!それに、仮に危険がほとんど無いとしても、なぜ危険を冒してまで私をここに連れて来たんですか?」 「好奇心、気まぐれ、天の邪鬼、運命。何とも言えますが、その理由は大事でしょうか?追々私達のことが分かってくるでしょうし、私達も貴方のことが分かってくるでしょう。結局は、みんなが幸せなのです」 「そんな戯言を言って!まー、でも、私も仰せのようにしましょう。あんたが幸せだということに私も満足ですよ」 私は皮肉っぼく言ってやった。 「こちらも同様です」 ニヤッと笑いながらアーガスはそう言い、空になった二人のグラスにスコッチを注いだ。 「正直なところ、一緒にいると楽しいのですが、今はやることが色々とありましてね。宇宙艦隊諜報部が私を必要としていることは別としても、貴方と同じような訪問者を何人か歓迎しに行かなければならないんです。惑星の方に行く時刻なんですよ。 そこで、貴方を別の者に任せます。これから3日間位、貴方がこの宇宙船にいらっしゃる間、ドクター・モーニングスターが貴方の案内役を務めます。でも、これから数時間しないと、ドクターは勤務に就きませんので、どうでしょう、お一人で外に出て、もう少し探索をなさったらいかがでしょうか?時間が来たら、ドクターに貴方を見つけさせますから」 そう言って、彼が手をひょいと動かすと、覆いのドームの一部がゆっくりと開き、なだらかな丘陵が目の前に開けた。 そこには青々とした亜熱帯の植物が生い茂り、それがハワイのような島を覆っている。人の足に踏み固まれた下り坂の小道が、樹木の深みへと続いている。 アーガスが説明する。 「今ご覧になっているのは、私の故郷である、地球に似た惑星アンクの環境をかなり良く再現したものです。占めているスペースはこの宇宙船内部のほんの一部に過ぎません。貴方のような人問にとってはまあまあ安全ですが、とにかく、例のミニ円盤に同行させましょう。貴方に快適に過ごして頂くためですが、必要とあらば情報を得たり、ビデオ電話をかけることも出来ます。後ろの長椅子に着替え用の衣類を置いておきました。宇宙旅行用の装具はここに置いておいてくだされば、ちゃんと管理をさせておきます」 私が着替えを済ませると、彼は握手をしてから出て行った。彼が気に入った。お互いにそう思った、と感じた。これから何度も会うということが、心の奥深いところで分かっていた。私はドームから歩いて外に出て、熱帯の楽園で嬉しい休憩を取ることにした。音もなくついてくるミニ円盤をお供に従えて。 倦アく 宇宙の友人達「バズ・アンドリュース物語」/はじめに〜バズ・アンドリュース物語の序 <<重要なお知らせ>>@peps!・Chip!!をご利用頂き、ありがとうございます。
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