喝采
【幻想】

 滝の水が涼しげな音をたてて落ちていく。艶やかに咲いた花が方々で香り立ち、東屋へ続く道には蜘蛛の巣の橋がかかる。鮮やかな鳥たちが頭上を旋回する。クーリーを被った男たちは、蓮の葉の傘をさして東屋へ向かっていく。


「シノワズリね」
 倫子はサイドテーブルに無造作に置かれたティーカップを手に取った。たしか、前回来たときにはこんな物はなかったはずだ。ふらりと訪れてみた友人のアパートは、たったの二カ月足らずで以前の記憶よりさらに乱雑さを増したようである。もっとも、ここは住まいではないのだから、彼自身頻繁に訪れるわけではないのかもしれない、などと思いながら、曲線に描かれた桃源郷をまじまじと眺める。
「これ、どうしたの?」
 段ボールに埋もれてさらに狭くなってしまったキッチンスペースに向かって声をかけると、葉介は意外なほどあっさりと答えた。
「みよちゃんだよ」
 みよ子?
 思わぬ名前の登場に、倫子は顔を上げる。
「あいつ、こっちに来たの?」
「うん」
「いつ?」
「三月。サン・ローランのオークションの後」
「三月?」
 倫子はなおさら驚いた。みよ子から倫子のもとへ、最後に連絡があったのは去年の十一月の初めだった。それから今までの五カ月間、彼女からの連絡は一度もない。そういうことは珍しくはなかった。半年連絡が無いのは、みよ子にとっては当たり前なのだ。しかし、そういうときには他の連中にも同じように連絡がないものだと、倫子は漠然と信じていた。
 葉介はやかんの置かれたガスコンロの火を見つめている。寡黙な背中。
 何かあるな。
 倫子はそう直感したが、わざとそれには触れず、話題を変えた。
「あいつ、こういう趣味だったっけ」
 手元のティーカップは、薄い白磁に繊細で豪奢な絵付けが施されたもので、素晴らしく美しいが、どことなく成金趣味を感じさせる。『シンプル・イズ・ベスト』を信条とする倫子には、それを好む人間の気持ちは理解しがたかった。




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